病気への理解から始まる治療と仕事の両立支援

増える血液がん患者の社会復帰

ある日とつぜん、上司や部下、同僚から「血液がんになった」と告げられたら? 患者さん本人とは別のショックに襲われ、どうしたら良いのかと戸惑われることでしょう。

いまや国民病とも呼ばれるがんですが、血液がん患者はそのうち5.2 %と希少性が高く、不治のイメージが根強いため、職場の理解を得ることが難しい疾病のひとつとされてきました。しかし近年、治療成績は飛躍的に向上しており、治療を乗り越え、あるいは治療を続けながら社会復帰する人々が増えています。

「平成22年度国民生活基礎調査」によれば、がんに罹患しながら仕事を続けている人の数は32.5万人にのぼります。また平成28年には「がん対策基本法」が改正され、がん患者の雇用の継続等へ配慮するよう、事業主の責務が定められました。本人が安心して治療と仕事を両立させることができるよう、事業規模に関わらず全ての企業/事業主に、その支援が求められているのです。

血液がん治療後の特徴

血液がん患者が復職あるいは就業する際に、企業側が留意しておきたい点がいくつかあります。

まず、全身をめぐる血液に治療が及ぶため、その影響が肺がんや胃がんなど、他の固形がんと比べて長期にわたる傾向が強いということです。また、免疫を司る組織である血液そのものが治療の対象であり、免疫力が弱い状態が長く続きます。ほかにも感染症や心臓、消化器系への影響など、その他の様々な副作用が多岐にわたって出やすいことも特徴のひとつです。治療終了後10年以上経過しても、体力や免疫力の低下などに悩まされる患者さんは少なくありません。

抗がん剤治療や放射線治療等のみで治癒が難しい場合、また再発が懸念される場合などには「造血幹細胞移植」という特殊な治療に臨みます。移植による副作用の中でもGVHD(移植片対宿主病)は、この治療のみに見られるもので、免疫反応によって引き起こされます。多くの症状が皮膚などに出ますが、だるさやしびれ、視力の衰え、臓器不全、原因不明の痛みなど見た目には分からない症状に悩む患者さんも多く、慢性的なGVHDになると、その症状を抱えながら社会復帰することになるため、身体的・心理的負担はさらに大きなものとなります。GVHDの治療として免疫抑制剤を使用する患者さんは、健常な人にとっては害のない細菌やウィルスが重篤な感染症を引き起こすことがあり、職場環境にも注意が必要です。

一進一退を繰り返しながら、少しずつ良くなっていくのが血液がんの治療後の特徴です。復職しても通院や体調変動、合併症による不測の入院が必要な場合もあり、患者さんにとっては治療が一段落してからが第二の闘病期の始まりだと理解しておきましょう。

しかし一方で、血液がんと診断されても入院治療はせず、経過観察となる患者さんもいます。内服治療や通院治療のみで、発病前とあまり変わらない生活を送る人もいて、一口に血液がんといっても、患者さんの治療経過や治療後の身体状態は様々です。例として退院後、寝たきりの状態が一定期間続く方もいれば、1年ほどでフルマラソンを完走するほど回復する方もいます。それは、治療の影響に個人差が大きいという理由によるもので、決して個人の努力の差ではないことも理解しておきましょう。

理解が安心につながる

造血幹細胞移植、GVHD、免疫抑制剤など聞き慣れない言葉が多いですが、それらを理解しておくことは、患者さんの大きなサポートになります。自身の治療や予後について幾度も説明することは苦痛を伴うことがあり、上司や同僚に病状を理解してもらうことが、不安なく仕事を続けるために最も必要だと約7割の患者さんが回答しているというデータもあります。

患者さんの社会復帰を支援することは、「労働安全衛生法」に基づく労働者の健康確保対策につながり、企業には継続的な人材の確保、安心感やモチベーションの向上による人材の定着、生産性の向上などをもたらします。また多様な人材を活用することで組織が活性化し、企業の社会的責任(CSR)を果たせるなど多くのメリットもあります。最も配慮が必要な人に支援が行き届いている企業は、誰にとっても働きやすい企業、働きたくなる企業です。まずは血液がんについて理解することから始めましょう。

※免疫抑制剤とは…体内の免疫活動を抑制ないし阻害する薬剤。血液がん患者には造血館細胞移植前の処置として、また移植後のGVHD(移植片対宿主病)の抑制のためなどに用いられる。