G-CSFを注射すると、なぜ血液中に造血幹細胞が出てくるの?

この記事は、福岡大学薬学部 医薬品情報学 助教 松本太一先生に寄稿していただきました。

G-CSF注射で血液中に造血幹細胞が出てくるのはなぜ?

顆粒球コロニー形成刺激因子(granulocyte-colony stimulating factor:G-CSF)は、普段は骨髄の中にいる造血幹細胞を血液中に放出させるために、最もよく使われるお薬です。G-CSF製剤としては、フィルグラスチム(商品名:グラン®)、レノグラスチム(商品名:ノイトロジン®)、ナルトグラスチム(商品名:ノイアップ®)などがあります。この記事では、G-CSFを注射すると、骨髄中の造血幹細胞が血液中に放出される仕組みについて紹介します。この仕組みはとても複雑なので、ここでは一部だけ紹介します。

まずは、造血幹細胞が骨髄の中でどのように暮らしているか紹介します。造血幹細胞は色々な細胞に支えられて生活しています。骨髄の中には、血液細胞以外の細胞がたくさんいて、こういった細胞は、骨髄間質細胞(こつずいかんしつさいぼう)と呼ばれます。造血幹細胞は、骨髄中で、骨髄間質細胞と手をつないでいます。また、骨髄間質細胞は、とてもいい人たちで、造血幹細胞に好物を与えてくれます。あまりにも居心地がいいので、造血幹細胞は骨髄間質細胞と一緒に暮らしています。このように、造血幹細胞を支えている骨髄間質細胞たちのことを「造血幹細胞ニッチ」なんて呼んだりもします。

次にG-CSF側のお話をします。G-CSFを鍵に例えましょう。G-CSFは体内に入ると、ばっちりハマる鍵穴(受容体)を探します。私たちの体には、G-CSFの受容体を持つ細胞がたくさんいますが、その中の一つに、好中球という細胞があります。G-CSFが受容体にくっつくと、好中球が増殖し、また、好中球エラスターゼやカセプシンGという名前の酵素がたくさん放出されるようになります。実は、この二つの酵素には、造血幹細胞と骨髄間質細胞がつないでいる手を切り離してしまう作用があるのです。さらに、G-CSFの作用によって、骨髄間質細胞から分泌される造血幹細胞の好物の量が少なくなってしまいます。骨髄間質細胞との縁を切られ、好物も与えられなくなった造血幹細胞は、好物を求めて血液へと旅立つのです。

このように書くと怖い薬のように感じますが、G-CSFは長期間注射される薬ではありませんし、タンパク質なので、分解されると効果がなくなり、出ていかなかった造血幹細胞が増えたり分化したりして、骨髄は元通りになっていきます。ただし、副作用が全くないというわけではない。ということは知っておきましょう。

簡単にまとめると、G-CSF注射→好中球が増える→骨髄中の好中球エラスターゼやカセプシンGが増える→造血幹細胞と骨髄間質細胞が手を放す+造血幹細胞の好物が減る→造血幹細胞は血液へと旅立つ。となります。

自家造血幹細胞移植の際には、ほとんどの患者様がG-CSFを注射されると思います。最近では、末梢血幹細胞を提供される例も増えているようです。ご自身がG-CSFを注射された時、体の中ではこのような細胞のドラマが繰り広げられていることを想像してみてください。

G-CSF