プレスリリースから読み解く多発性骨髄腫

この記事は、獨協医科大学埼玉医療センター 糖尿病内分泌・血液内科 教授の田村秀人先生に寄稿していただきました。

「2020年11月27日、再発または難治性の多発性骨髄腫患者に対する抗CD38抗体ダラツムマブ(商品名ダラザレックス)とプロテアソーム阻害薬カルフィルゾミブ、デキサメタゾンとの併用(DCd)療法、並びに用法・用量にダラツムマブの初回分割投与を追加する一部変更申請が承認された」

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再発・難治性多発性骨髄腫患者に対する治療法
〜抗CD38抗体ダラツムマブ(商品名ダラザレックス)とプロテアソーム阻害薬カルフィルゾミブ、デキサメタゾンとの併用(DCd)療法が新たに承認〜

抗CD38抗体薬ダラツムマブ(商品名ダラザレックス)は、骨髄腫細胞に発現しているCD38蛋白に結合して腫瘍を直接的に攻撃すると同時に、骨髄腫に対する腫瘍免疫を回復させることにより、深く長く奏効する治療効果の高い薬剤です。近年、65-70歳以上で強い抗がん剤が使用できない(=移植適応のない)初発の多発性骨髄腫患者に対して、ダラツムマブを含んだ治療法が推奨されています。また、再発あるいは増悪時には、抗CD38抗体薬などの抗体治療薬、免疫調節薬、プロテアソーム阻害薬、従来の抗がん剤から1-2剤+ステロイド薬との併用により治療します。

実際の治療法の選択は、治療要因、疾患要因、患者要因などにより総合的に判断して決定します。

近年、再発・難治性多発性骨髄腫患者に対して、週2回のカルフィルゾミブ、デキサメタゾンとの併用Kd療法(154例)と、Kd療法とダラツムマブを併用したKdD(またはDCd)療法(312例)とを比較した第3相臨床試験、CANDOR試験が行われ、全奏効率、無病生存期間ともにKdD群で有意に良好な成績だったことが報告されました。この結果より、再発または難治性の多発性骨髄腫患者に対するKdD療法、並びに用法・用量にダラツムマブの初回分割投与を追加する一部変更申請が承認されました。

再発・難治性多発性骨髄腫患者に対する抗CD38抗体ダラツムマブ(商品名ダラザレックス)とカルフィルゾミブ(商品名カイプロリス)、デキサメタゾンとの併用KdD(またはDCd)療法(312例) vs カルフィルゾミブ、デキサメタゾン併用Kd療法(154例)

-CANDOR試験-

  •  前治療レジメン数1-3(中央値2)
  •  年齢29-84(中央値64)歳
  •  高リスク染色体異常16%、レナリドミド耐性例32%、プロテアソーム阻害薬耐性例33%を含む再発・難治性多発性骨髄腫患者
Lancet掲載(Dimopoulos M, et al. Lancet 396:186-197, 2020). 最新データでは、無病生存期間中央値KdD群28.6ヶ月、Kd群15.2ヶ月

サブグループ解析では、高リスク染色体異常を持つ例、レナリドミド耐性例、前レジメン1年以内の早期再発例などに対しても良好な無増悪生存期間が得られたことから、KdD療法はレナリドミド耐性高リスク症例、早期に再発するような難治例に試すべき治療法であることが示唆されました。とくに、ボルテゾミブ、レナリドミド、デキサメタゾン併用VRd(BLd)療法中、あるいはレナリドミド継続治療中での再発増悪時にはいい適応だと考えられます。一方、抗CD38抗体薬治療中に再発増悪した際のKdD療法はあまり効果がないと考えられます。
現在、さらに多くの新しい治療法の開発、臨床試験が行われています。4-5種類以上の治療薬に耐性となれば、キメラ抗原受容体遺伝子導入T細胞(CAR-T)療法など、新たな治療法も考慮した方がいいですので、現在進行中の臨床試験にエントリーできるか主治医と相談するのも良いと思います。