移植とリハビリテーション

 リハビリは移植の前から

移植医療は、過酷な治療や無菌室での生活、長期的な入院によって、体力や筋力が低下します。段差のない入院病棟での生活が長期間続き、さらに寝ている状態が続くと筋力低下は1週間で20%、3週間目になると60%低下すると言われています。

移植治療に伴い患者さんには、吐き気やだるさ、口内炎や下痢・嘔吐などさまざまな症状が出ます。食欲低下により、栄養状態が悪くなり、眠れなくなることもあります。精神的なストレスを感じたり気持ちがふさぐこともあり、どうしても昼間もベッドに伏せりがちになります。

こうして動かなくなることで筋力が低下し、少し動いただけでエネルギーを消費するので、一層疲れやすくなり、疲れるから動かなくなる、という悪循環に陥りがちです。そういった患者さんの多くは、治療が終了しても何年にもわたり、体力や筋力の低下に悩まされています。

最近は、さまざまな研究もされており、移植の前からリハビリとして「運動療法」を取り入れることが最も重要であることが分かってきました。運動をすることにより、動いてもエネルギーをそれほど消費しなくなり、疲れにくくなります。また、心肺機能や骨量の低下を防いだり、精神的な苦痛も軽減することで患者さんの生活の質(QOL)の向上が期待できます。

運動療法は、有酸素運動(歩く・自転車こぎなど)を中心に、軽い筋肉トレーニングやストレッチも有効です。体調がすぐれないときは無理しないことも大切ですが、必要以上に安静にせず、座っているだけでも、首を支え、体を保持しようと筋力が使われていることを、意識するようにしましょう。

 移植時の筋力トレーニング

入院中は、がんの治療と並行して、リハビリが行われます。理学療法士が治療や体調に合わせて、出来ることを見つけて実施します。医師や理学療法士、看護師の指示のなかで、自分でも体調の良いときには積極的にリハビリに取り組むことが、移植後の回復、社会復帰に影響します。

無菌室では、さらに活動範囲が制限されます。点滴の数も多く、押して歩くにも重くなり、体調もその日によって変化するようになります。その時は、ベッドの上で出来るよう範囲で継続します。

トレーニングができなくても、関節を動かしておくことは大切です。

 退院・社会復帰に向けてのリハビリ

移植後、白血球が増加し、生着が確認出来たら無菌室から退室して、一般病棟に移ります。(施設により異なります)

少しずつ、移植前のリハビリメニューを再開します。はじめは、想像以上に筋力が低下し、体力が落ちていることにびっくりするでしょう。しかし、効率よく、安全に筋力や体力を向上させることは、感染症やGVHD(移植片対宿主病)のコントロールにもつながります。

退院が近づいてきたら、外出や外泊などで、少しずつ社会復帰するためのトレーニングをします。大事なことは、動く事であり、歩くことです。

退院しても、しばらくは体力や筋力が低下しているので、関節を守りながらトレーニングをするためにも、必要以上の階段昇降はさけると良いでしょう。歩いてふらつきを感じる場合は、杖を使用するなどの検討が必要です。

いよいよ社会復帰となった時に意外と負担に感じるのが通勤・通学の電車やバスです。はじめは短時間だけ、としたり、混みあう時間をさけて通勤・通学をするなど無理なく社会復帰できるように、計画していくことも大切です。

最近は、ヘルプマークという、電車やバスでの配慮が必要なことが分かるマークが、東京都から始まり、全国へと広がりつつあります。

ヘルプマーク
義足や人工関節を使用している方、内部障害や難病の方、または妊娠初期の方など、外見から分からなくても援助や配慮を必要としている方々が、周囲の方に配慮を必要としていることを知らせることで、援助を得やすくなるよう、作成したマークです。(東京都福祉保健局から引用)