ボディイメージの変化
がん患者さんの中には、がんによるボディイメージの変化に悩む場合があり、生活の質(QOL)に大きく影響します。ボディイメージとは、人が体について持つイメージであり、それは意識的あるいは無意識な認識であることもあります。がん患者さんにおいては、身体の一部の喪失(四肢や乳房切除、人口肛門の増設など)、形や外観の変化(脱毛、体重の増減など)、身体機能の障害(関節可動域の低下、歩行障害など)といったことが挙げられます。また、治療中の体力的な衰えや倦怠感といったことでも精神的苦痛を感じることもあります。
造血幹細胞移植、特に同種移植を受けた患者さんはGVHDによる皮膚障害、爪の変形、脱毛、関節の拘縮など移植後長期にわたり、さまざまなボディイメージの変化に悩むことがあります。
味覚障害を伴う食欲不振を長期に感じる患者さんも多く、体力の回復も緩徐なため、患者さん本人のみならず家族や他者から食べられない事や体重が増えないことを指摘されることに苦痛を感じることもあります。
つまり、ボディイメージは、自分自身の持つイメージや感情の他に、他者の反応にも影響され形成されます。治療に伴うボディイメージの変化の中で、特に重要なのが、自身のパートナーの思いや意見と言われています。医師や看護師のサポートだけでなく、パートナーの理解や支えは、肯定的なボディイメージを持つ上でとても重要です。
受けられる支援(精神的)
もし、あなたやご家族の誰かががんにかかったら、あなたの心はどんな感情を経験するでしょうか。がんは患者さんとご家族に身体的、精神的、あるいは経済的な負担を強いる病気であることは確かです。精神的な負担が高じると、がん治療に必要な意思決定ができなくなる、日常生活の質(QOL)が下がるなどの思わぬ障害が生まれます。このため最近は、「がんが心に及ぼす影響と、心ががんに及ぼす影響」について対処する「精神腫瘍科(サイコオンコロジー)」の医師や、緩和ケアチームに所属する精神科医が患者さんとご家族の心のケアを行うケースが増えてきました。
精神腫瘍医(サイコオンコロジスト)や精神科医、心療内科医、臨床心理士はいずれも心の専門家です。少しでも不安に思うことがあれば、ぜひ、主治医に相談して心の専門家を紹介してもらってください。
がんの告知など「悪い知らせ」が伝えられたときに生じる反応には次の3段階があると考えられています。
診断名を告げられた直後は、第一期の「衝撃の時期」にあると考えられます。何も考えられない、何をしてよいかわからないといった状況は、珍しくありません。これは通常の反応であり、現実に適応するための一段階です。つらい気持ちを一人で抱え込まず、ご家族や信頼できる友人、そして主治医に相談してみましょう。
「悪い知らせ」を聞いてから少し時間がたつと、今度は第二期「不安・抑うつの時期」を経験します。第一期を過ぎ、現実が見えてくるので、不安感が増してしまうのです。これも現状に適応するための健全な反応ですが、不安や抑うつが2週間以上続き、不眠や食欲がでないなどの症状がある場合は、適応障害やうつ病の可能性があるので心の専門家に相談する必要があります。この時期は、考えがまとまらないこともあるので、医師から治療の説明があるときは家族等と一緒に行き、メモをとる、録音をするなど、後日確認できるようにしておきましょう。
病名の告知から2週間を過ぎると次第に心身が落ち着き、適切な判断と対応ができる第三期の「適応の時期」に入ります。
例えば、抗がん剤による治療は副作用の怖さだけが先行してしまいがちですが、最近では、制吐薬の開発が進み、抗がん剤による吐き気をかなり予防できるようになってきました。事前に副作用の内容や出現時期、そして副作用から解放される時期を知ることで、心の負担がかなり軽くなります。不安な点があれば主治医や担当看護師に相談してみてください。
移植治療が終わり退院の日を迎えると、目前のストレスから解放されてホッとする反面、これまで身近にいた医療者との接触は少なくなります。また、これからの生活や再発への不安など、様々な感情がわきでてくる時期でもあります。「こんなことで」と遠慮せずに主治医に相談し、必要なときは精神腫瘍医や臨床心理士を紹介してもらいましょう。また経済的な面や日常生活の支援についての相談は、各がん診療拠点病院に設けられたがん相談支援センターや自治体の福祉保健局などで受け付けています。
このほか患者会に参加し、お互いの経験をわかちあうことで「一人ではない」ことに気づくかもしれません。現実に向き合うのはつらいかもしれませんが、がんに前向きに取り組んでいる先輩との交流は、あなたの心身に良い影響をもたらすはずです。
その他、前向きに治療に向かうための、“心のケア”や“体験談”をもっと知ってほしいがんと生活のことウェブサイトで紹介しています。