ドナー体験と移植治療

日本赤十字社医療センター血液内科副部長の塚田信弘先生に、造血幹細胞移植治療とドナーについてお話を伺いました。塚田先生は学生の時にドナー登録をされ、ご自身もドナーとして骨髄の提供をされた経験をお持ちです。その経験と、現在携わられている血液のがんの治療に関してお話を伺い、その立場から患者さんとドナー登録のお願いのメッセージをいただきました。

今日はどうぞよろしくお願いいたします。

お願いします。

まずは、骨髄バンクに登録されたきっかけから教えてください。

医学部の4~5年生の頃だったと思いますが、結構献血をしていたんですね。なので、その延長で登録した気がします。あと医学の学生の時に骨髄移植という治療があるということを知っていたのもあって、その延長で登録してみたいと考えました。リスクに関しては当時、高校からラグビー部にずっと所属していたので、提供のリスクは、ラグビーの怪我のリスクに比べたら大したことないと考えて、あまり抵抗はなかった気がします。

登録してからドナー候補になるまでの期間でしたか?

骨髄バンクできたばかりだったと思うんですけども、確か1年ぐらいの間だったと思います。

登録から1年で候補になったそうですが、その間、日常生活で気をつけていたことや、候補となった場合に備えていたことなどはありますか?

まさかそんなに早く声がかかると思っていなかったので、あまり気をつけてなかったというのが正直なところかもしれません。

医師というお立場で、現在登録をされている方に気をつけて頂きたいことは何かありますか?

登録をしている段階では普通に過ごしていただいていて問題ないと思います。登録しているからといって、例えば旅行は遠慮するとか趣味を遠慮する必要はないと思います。ただ暴飲暴食などはドナー登録しているからというだけでなく控えていただいた方がいいと思います。それ以外は気をつけていただく必要はないと思います。

実際にドナー候補になった時、どのようにお感じになりましたか?率直な気持ちをお聞かせください。

そうですね、まず電話で連絡をもらったんですけども、まさかという気持ちと、あとすごく嬉しかったのを覚えています。

その「嬉しかった」というのは、どんな感じだったのでしょうか?

嬉しかったのは、おそらく献血であればいつでも自分が行けばできるわけですよね。でも骨髄バンクのドナーっていうのは白血球の型が一致して、さらに選ばれた特別な人にしかできないボランティアなわけですよ。それができる機会を与えてもらったっていう意味で、選ばれたっていうのが非常に嬉しかったと記憶しています。

その後、骨髄提供したのは医師になってからだそうですね。日程調整などで困ったことはありませんでしたか?

そうですね、実際提供したのは医師になって1、2ヶ月の時だったので、コーディネートは医学部の6年生の時に進んでいたんです。ですので、人生で一番大事な医師国家試験がある時期だったので、そこだけは避けていただくようにコーディネートをお願いしました。

日程調整も可能ということですね。

そうですね。私が血液内科の医師として、例えば患者さんのコーディネートを進めるときも、患者さんによってはある程度、待てる方もいらっしゃるんです。ただ大抵の患者さんはこの時期にピンポイントでやりたいっていう患者さんが多いので調整できない場合もあります。

塚田先生が骨髄バンクドナーになると決めた時の、ご家族の反応はどうでしたか?

医学部の学生だったので、父は医師でしたし、全く心配はしていなかったと思います。ただ母は全くわかってなかったので、ちょっと心配はしていた気がしますが、父親等に話を聞いて最後は全く反対もなく提供に至りました。

骨髄を採取された時のことを伺います。入院して骨髄採取することに不安はありませんでしたか?

生まれて初めての入院でしたが、当時は骨髄の提供が自分の働いている施設でも行うことができたんです。今はできるだけしないようになっていると思うんですが。自分が学生時代過ごしてきた病院でもあり、働き始めたばかりの病院でもあったので、入院の環境という意味で全く心配はなかったと言うか、全然違和感はありませんでした。

骨髄バンクに登録したい気持ちがあっても、中には痛いのではないかと躊躇される方もいらっしゃると聞きます。実際に先生はいかがでしたでしょうか?

痛かったんだと思います。端から見ていた人が、足を引きずって歩いていたって言ってたので。ただ、この点に関しては最近実際ドナーさんの採取をしていて思うんですけども、昔より明らかに痛みが軽くなっていると思うんですね。今は昔と違って非常にキレのいい針になって採取の後の傷も小さいですし、最近は痛くて困ったって言う患者さんはほとんどいらっしゃいません。

骨髄提供が人生に与えた影響をお伺いしたいんですが、現在血液内科の医師をしているのはドナーの体験が影響したのでしょうか?

体験が影響したっていう面もあるかもしれないですし、血液内科を目指していたからこその巡り合わせでドナーとして選ばれたのかなとか、運命的なものも正直感じましたね。この経験はいろんな意味で、その後患者さんに移植をする上で、そしてドナーさんの採取をする上でも、是非活かしていきたいと、その時思いましたし、非常に貴重な経験をさせてもらったと思っています。

最初から血液内科の医師を目指していらっしゃったのですね。

学生の頃からなぜか血液内科を目指したいと思っていたので、貴重な巡り合わせだと思います。

ドナーさんから提供を受けた患者さんは、いつもドナーさんに思いを馳せ感謝していると聞きます。逆にドナーとしては患者さんに対してどのような思いでいらっしゃるのでしょうか?

難しい質問ですね。兄弟間の移植であれば、その移植を受けた患者さんがどんな経過をたどっていくかっていうのがわかりますが、骨髄バンクのドナーさんに関しては、共通して言えることですけども、その移植を受けた患者さんがどんな経過をたどるのかは分からないんですね。ただそれはある意味いい面でもあると私は思っていて、提供した後はとにかく患者さんが順調に経過してくれることを願うだけだと思っています。で、これはどうしても話しておかなければいけないことですけども、全ての患者さんが順調に経過するわけではないんです。でも患者さんにとってドナーさんが見つかって提供してもらえるということは、生きるための大きなチャンスを与えてもらうことになるんです。

ドナーになる前と後で医師として何か変化した事はありましたか?

そうですね、患者さんにというよりは、ドナーさんにですね。骨髄バンクのドナーさんに最初いろんな流れを説明する上で非常に説得力のある説明ができるって言う点が、一番大きいと思うし、「実は私も何年前に骨髄の提供をしたんですよ」と話をすると、ドナーさんも非常に安心されます。私も提供してもう20年以上こうして元気にしているわけなので、そういう話をするとドナーさんは非常に安心されます。

最後に、この Start to be のサイトをご覧の皆様に、ドナー経験のある医師だからこそ伝えたいメッセージをお願いします。

そうですね、今骨髄バンクにドナー登録者が49万人以上いるんですけども、実際に声をかけて動いてくれるドナーさんはその中で限られているんです。それは登録してから10年、20年経過したりしていて、登録したときは提供する意思はあったけれど、生活の変化や家庭の環境が変って実際はなかなか提供できないっていう方もいらっしゃると思うし、あと患者さんの主治医としては、若いドナーさんの方がコーディネートが進みやすいということもあって、若いドナーさんを選ぶ傾向にあります。今、ドナーのプールの中で一番多いのが40代、50代ですが、20代、30代のドナーさんにもっと増えて欲しいと思っています。そのためには我々も何か努力していかなければいけないと思っています。

若いドナーさんを増やすためにどういったことができるのかについて、医師として何か具体的なご意見がありますか?

単に登録者を増やすっていうのではなくて、骨髄移植という治療でたくさんの患者さんが助かっているということを知ってもらうこと。まずはそれが一番大切だと思います。医学部の学生でさえ骨髄移植のことをほとんど知らない人が結構多かったりするんですよね。ですのでそういうところから啓蒙をしていかなければいけないと思います。とにかく素晴らしい治療なんだっていうことを知ってもらって、それからドナーになるってことは、HLAという白血球の型が一致して、さらにその中でもいろんな条件をクリアした選ばれた人にしかできない貴重な経験なんだということ、「その人にしかできないボランティア」なんだってことを知ってもらって、やりがいを感じてもらえる、そういうドナーさんが増えたらもっともっとバンクも充実していくのかなと考えています。

聞き手:池田明香