2月15日は国際小児がんデー
国際小児がんデーは小児・AYA世代のがん患者、サバイバーと家族のために、小児がんへの意識を高め、支援を表明する世界共通のキャンペーンです。2月を中心に、国際小児がんデーキャンペーンとして、全国各地で様々な小児がんの啓発活動が行われます。START TO BEでは日本小児血液・がん学会/日本小児がん研究グループと共催で開催したJapan Cancer Forum 2020 (’20 10/24~25) から「小児がん」の講演内容を採録記事として毎週1セッションずつ合計4セッションを公開します。
この記事は木下義晶先生 (新潟大学大学院 医歯学総合研究科 小児外科 教授)にご講演いただいた「小児がん:新型コロナウイルスと小児がん」の内容をまとめたものです。
※2020年10月にご講演いただいた内容です。最新の状況については、現在の情報を確認してください。
本日は「新型コロナウイルスと小児がん」というテーマでお話をします。お話の内容は「新型コロナウイルスとこども」という観点から日本国内の状況をお話し、次に「新型コロナウイルスと小児がん」に焦点を絞って進めていきます。
まず日本国内の小児全体の状況です。これは日本小児科学会予防接種感染症対策委員会調査より、データの使用を許可していただき、紹介するものです。登録は任意で、患者発生から登録までには一定の時間を要するため、最新の国内の状況を示しているわけではありません。また、小児科医からの、10代後半の報告は少ないこともご理解いただきご覧ください。4月の第1波の後、少し落ち着きましたけれども、また7月から第2波に合わせて、小児例も夏場にピークを迎えました。現在、国内の累積患者数は、10月上旬において、約500名と言われております。
これは症状ありがオレンジ、なしが黄色で、症状ありのオレンジが若干上回っており、報告
例においては症状ありが半数を占めるという状況にあります。
年齢では、1歳から4歳、10歳から14歳の年齢層が比較的多く、また多くは入院管理となっております。小さい子どもでは、ICU(集中治療室)での管理も行われておりました。
先行感染者、すなわち感染経路を示すものですが、約3/4は家族からであり、学校や幼稚園の中で子ども同士が移し合ったという例は少ないということが伺えます。最終的な予後に関しては、生存・退院がほとんどであり、亡くなったという報告はございません。
さて、新型コロナウイルスに子どもは罹りにくい、あるいは罹っても重症化しにくいということが言われておりますが、これは何故でしょう。今分かっていることの一つとして、コロナウイルスが体内で結合する蛋白質である、ACE(アンジオテンシン変換酵素; angiotensin converting enzyme)という受容体の発現が、小児では低いため、コロナウイルスが体内に入りにくいということがあります。また、感染したとしても、他の種類の抗体がコロナウイルスを攻撃する、いわゆる交差反応を示す抗体を持っているという説もあります。他にもいろいろ研究されていますので、今後さらに詳しいことが明らかにされていくと思います。また基礎疾患、特に肥満、高血圧、慢性肺疾患、糖尿病などを有する成人、特に高齢者では、重症化のリスクが高いとされております。小児においてはこのような疾患に罹患していることは、普通ありません。ただ小児においても、免疫抑制状態にある場合には罹患しやすい、重症化しやすいとも言われており、沢山ある難病の中で「小児がん」はその一つと考えられます。
さて、新型コロナウイルスに対して小児がんの患者さんが、実際にどのような状況にあるのか、あまり詳しい情報がないのが実情なのですが、流行が始まってすぐに、様々な組織や団体において、その対策や情報源をサポートしようという動きがありました。小児がんに関して、世界で最も大きなグループであります、北米のCOG(Children’s Oncology Group)、ヨーロッパのSIOP(The International Society of Paediatric Oncology)、そのほかアメリカの血液疾患の研究グループから特設サイトが設けられ、患者さんや保護者の方への情報提供が行われております。
海外の新型コロナウイルスと小児がんに関する情報サイト
- COGの(COVID-19)関連ページ
- SIOPとSt.Jude病院共同のCOVID-19関連ページ
- Children’s Cancer and Leukemia Groupの(COVID-19)関連ページ
- American Society of Hematology (ASH)の(COVID-19)関連ページ
日本でも小児系の関連学会、日本小児科学会、日本小児救急医学会、日本小児血液・がん学会、日本小児外科学会などが医療者だけでなく市民もアクセスできるページを作り、対策が続々と報告される海外の論文などを簡単にまとめたりして、情報提供を行っています。
日本の新型コロナウイルスと小児に関する情報サイト
- 日本小児科学会の新型コロナウイルス(COVID-19)特設ページ
- 日本小児救急医学会の新型コロナウイルス(COVID-19)特設ページ
- 日本小児血液・がん学会の新型コロナウイルス(COVID-19)特設ページ
- 日本小児外科学会の新型コロナウイルス(COVID-19)特設ページ
実際にどのくらい、論文があるのかをご紹介します。10月4日現在ですが、新型コロナウイルスに関する論文は、世界から発表されたもので、約56,000、これを「子ども」という検索で絞ると約5,000、さらに「小児がん」に関して特化すると300程度になります。私自身の所属している学会の担当で、これらの論文を随時まとめてホームページに掲載し、注意喚起を行ってきましたので、少しご紹介します。
まず、小児がん患者への影響が全く分からなかった春先ですが、ヨーロッパ、日本、オーストラリアなど、25ヵ国の医療者間で連携を行い、小児がんの患者さんがどのくらい感染しているのか、その状況をお互いに情報提供しました。感染症例は状況の判明した患者においては、症状は軽症だったとのことです。フランス国内、30か所の小児かん治療センターでは、33名が陽性、死亡例はありませんが、重症化の危険性があることを認識しなければならないという報告です。また、イタリアの6施設からは、21例が陽性、10例に治療の延期が必要でありました。12例が無症候性で、9例が症候性でした。
中国からは、急性リンパ性白血病(ALL; Acute Lymphocytic Leukemia)治療中に感染した1例の報告があり、重症化はしませんでしたが、診断までに11日を要したとしており、疑ったら積極的にPCRを行うべきだと提言しています。また、中南米20カ国では、医療者にアンケート調査が行われ、化学療法、手術、放射線治療などにどの程度影響を受けたかが報告されております。特に血液製剤の不足が問題視されていました。アメリカのニューヨークでは、小児がん患者で新型コロナウイルス感染治療のために入院が必要になる患者は5%と低い割合でした。またスペインのマドリードで、小児がん患者における感染の有病率は1.3%であり、症状は成人より軽度で予後良好であったとしています。
またこの論文のように、新型コロナウイルス感染の影響を受けて、感染はしていないのに治療に遅れをきたしたり、がんによる症状も、コロナウイルス感染症の症状と似ているところもあるため、小児がんの診断や治療開始が遅れ重症化するということが問題となっているという報告も出てきました。中国の施設からはこのような遅れが生じないように、感染が流行している状況によって、小児がん患者を遅滞なく、感染との区別をしっかりしていくように診療していくフローチャートを作成し、提言しています。例えば固形腫瘍は外科治療を必要とする切迫した症状や生命にかかわる状況においては必要とされる緊急手術は許容する。必要ではあるが、日程調整が可能な予定手術は化学療法と化学療法の間の2週間に合理的に計画する。急がない待機的な手術は延期するなどです。
日本では実際に小児がん患者さんが新型コロナウイルスに感染したという報告は現時点では論文としては報告されていません。6月に日本の医療者から発信された論文では、海外のガイドラインなどをもとに次のような内容が提言されました。新型コロナウイルス感染者の小児がん治療に関してですが、化学療法に関して、PCR陽性患者への化学療法は避けるべきである。24時間空けて、2回のPCR陰性確認後に開始することが望ましい。ただし、高リスクの患者さんはがん治療を優先するべきである。放射線治療に関しては、化学療法と同じような注意事項と、患者の容態が軽症の場合には施行する。また、外科療法に関しては、手術を行わなければ生命の維持が困難などの理由により、緊急性を要する手術に関しては、さらに注意事項を提言しています。
一方小児がんに関しては、免疫療法など、新たな治療法もどんどん研究が進んでいる状況ですが、臨床試験などに関する考え方は様々であり、例えば安全性を証明する第1相試験は、この状況下においては延期すべきだなど、研究に影響が及んでいることも否めません。
さて、これはあまり現時点では、日本の患者さんにとっては現実的な話ではないかもしれませんが、アフリカ系やカリブ海、ヒスパニック系の人たちに多いのですが、子どもたちが新型コロナウイルスに感染してからしばらくして罹る「小児多系統炎症性症候群(MIS-C)」という非常に重篤な病態が論文で続々と報告されています。一時新型コロナウイルスの症状が、子どもの病気としてよく知られている「川崎病」によく似ているという時期がありましたが、この後の報告では、実際に異なる病態であるという説が増えています。小児がんの患者さんに特別リスクが高いとは言われていませんが、子どもが罹る病態として、頭に入れおく必要があります。
さて、小児がんの治療を乗り越えて、現在元気にされている方の注意事項という視点で、IGHG(International Guideline Harmonization Group)という組織から声明が出されています。どのような化学療法の薬剤を使っているか、どのような放射線治療を行ったかなどにより、どのようなリスクが生じるかについて詳しく声明が出ていて、こちらも翻訳したものを学会のホームページなどからリンクできるようにしています。
最後に今日の話のまとめです。まずは小児がんの治療中、治療後に子どもが新型コロナウイルスに感染しないように、あらゆる防御策を行うことが必要です。これは医療者はもちろん、患者さん本人、家族、周りの人に共通して言えることです。それでも感染してしまった場合には、小児がんと新型コロナウイルス感染症の両者の重症度、緊急性などを十分に把握した上で、医療者は治療方針を決定する必要があります。また、さらに新型コロナウイルスに関しては、まだ分からないことも多く、新たな知見がもたらされると思いますが、小児がんの治療戦略にどのようにかかわってくるのかは、常に注視していく必要があります。
Japan Cancer Forum 2020で木下 義晶先生にご講演いただいた「小児がん:新型コロナウイルスと小児がん」の動画はこちらでご覧いただけます。
【Japan Cancer Forum 2020】小児がん:新型コロナウイルスと小児がん