移植と口腔ケア

造血幹細胞移植では、生着後も白血球の数や機能が回復途上にあるため、非常に感染しやすい状態にあります。長期にわたって感染症に注意が必要になるほか、急性GVHDも乗り越えなければなりません。また、移植を行うための移植病棟で生活するというのは、多少なりとも環境の変化に適応するための時間が必要になります。

入院生活から退院後の生活に至るまで、患者さん自身も治療に参加できるポイントもあります。医療者と一緒に移植を乗り切りましょう。

口腔ケア

造血幹細胞移植を受ける患者さんは、抗がん剤などによる化学療法や放射線治療もあわせて行われます。これらの治療による副作用は、全身的なものだけでなく、口腔内にもさまざまな不快症状を引き起こします。移植後に免疫力が低下するなかで、患者さんの口腔内は病原菌が繁殖しやすい状態になります。

慢性GVHDは、唾液腺を障害して口腔内を乾燥させ、口腔粘膜細胞を破壊します。

口腔内トラブルの症状

口内炎や口腔乾燥、味覚異常、虫歯や歯周病、出血、唾液の減少など、さまざまな症状を引き起こしますが、口内炎はほぼ100%の患者さんにあらわれ、重篤化しやすくなります。通常、口内炎は抗がん剤による前処置を始めてから1~2週間目に発現します。

口腔ケアの重要性

口内炎による痛みが強いと、痛みで食事がとれなくなる、眠れなくなるといった状態になり、これらのストレスが増すと、治療や回復に対する意欲にも影響を及ぼします。また、移植後で免疫力が低下していると、口腔内トラブルにより、全身の感染症を引き起こすリスクにもつながります。

予防

移植の前には必ず歯科を受診して、口腔内の診察をしてもらいましょう。

基本的な口腔内の清掃法を改めて指導してもらうとともに、場合によっては、歯石の除去や虫歯などがあれば治療をしておくこと、抜歯する可能性がある場合は必ず移植前に済ませておくことが大切です。

抗がん剤の影響などで口内炎を発症する時期は、口腔内を乾燥させない、痛みを緩和すること、感染を予防することがポイントです。

腔内を乾燥させない:口唇の保湿だけでなく、口腔粘膜の保湿もさまざまありますので看護師や医師に相談すると良いでしょう。

痛みを緩和する:口内炎による痛みが強いときは、局所麻酔薬を添加したうがい薬や痛み止めを使用することもあります。

感染を予防する:口腔内のトラブルが何もない場合は使い慣れた歯ブラシを使用すればよいですが、痛みや炎症がある場合は、毛先の柔らかい歯ブラシを使用し、より重篤な場合はスポンジブラシなどを使用して、症状を悪化させないように口腔ケアを継続するようにしましょう。