移植治療について

分子標的薬のジェネリックについて

この記事は、佐賀大学医学部 血液・呼吸器・腫瘍内科教授の木村晋也先生に寄稿していただきました。

慢性骨髄性白血病 に対するイマチニブのジェネリックの現状と問題点

慢性骨髄性白血病 (CML) は、2001年までは、造血幹細胞移植(いわゆる骨髄移植)が成功しない限り、ほぼ全ての患者さんが数年で亡くなる難病でした。しかし2001年にイマチニブ(先発薬商品名:グリベックⓇ)という分子標的薬が発売され、慢性期から治療をすれば、ほぼ死なない病気になりました。グリベックⓇは高額であり、薬価自体は1年で400万円近くになります。収入にもよりますが、高額療養費制度を利用しても、先発のグリベックⓇを服用した場合、毎月数万の自己負担がかかってしまいます。この高額な医療費を長期間(数年から10数年)続けることは、患者さんにとって、非常に大きな経済的負担です。

グリベックⓇの特許が2013年に切れ、15社がグリベックⓇのジェネリックを発売しました。しかしジェネリック発売から数年が経たった時点でも先発薬のシェアは 90% 以上とジェネリックはほとんど利用されていませんでした。原因は2つ考えられました。

1) ジェネリックの信頼性への不安:実際、海外で製造されたイマチニブのジェネリックが無効であったと言う報告もありました (Matter M. Int J Hematol 91:104–106, 2010)。

2)自己負担額が減らない:一般的にジェネリックは、発売当初。先発品の50-55% 程度の薬価に国が決めます。そのため高額療養費制度を利用しても患者さんの自己負担が減ることはありませんでした。自己負担額が同じなら、わざわざ後発品を購入する患者さんはほとんどおられません。
そこで我々は大原薬品と以上の問題に取り組みました。ジェネリックは薬の構造式が同じため(コーティングなどは必ずしも同じではありません)、10数名に投与し、血液中の薬品の濃度が先発品とほぼ同じなら、がん(白血病)細胞をやっつけることが証明されていなくても承認されます。コストの面から、大掛かりな臨床試験はできないにしても、せめて試験管や動物モデルでの効果や副作用の検証はジェネリックでもしたいと思い実験をしました。その結果、試験管の中での実験でも、CMLモデルマウスでも、先発のグリベックⓇとジェネリックのイマチニブ「オーハラ」は全く同等の抗腫瘍効果が確認され、英文誌にも掲載されました。少しは、効果と安全性を示すことができました
薬価に関しては、2018年に大原薬品が他社に先駆けて薬価を23%まで下げられました(現在は、16%)。高い品質で、安定供給ができ、この薬価を維持するのはとても企業努力が必要です。この価格になって、初めて患者さんの自己負担額が減少しました。

しかし新たな問題も見えてきました。思い切った値下げが実現したら、厚労省の薬価基準収載品目リストから「オーハラ」の名前が消えました。最高価格の30%以下の薬価は統一名収載ということで、屋号等は入らない一般名(成分名)のみで、メーカー名も表示されない形で収載されるとのことです。正直、どういう意図でこのようなルールがあるのかわかりません。しかし、命に直結する薬を、どこのメーカーが安価で販売しているのかわからないと言う状況は望ましくないと考えます。
今後、多くの高額な分子標的薬の特許が切れていきます。せっかくのジェネリックです。患者さんの安全を担保しながら、極力安価で、しかも安心して使用できる制度にしていく必要があります。