新型コロナウイルス感染症において注意すべきこと

【2020年6月2日に内容を更新しました】
この記事は、国立がん研究センター東病院・総合内科、国立がん研究センター中央病院・造血幹細胞移植科(併任)冲中 敬二先生に寄稿していただきました。

移植後の患者さんにとって風邪は大きな脅威となる

手洗いなどの感染予防対策は年中必要

ほとんどの風邪は呼吸器ウイルス(RSウイルスやパラインフルエンザウイルス、ライノウイルスなど)による自然に治癒する感染症で、健康な人にとって問題となることはほとんどありません。しかし造血幹細胞移植後の患者さんや血液腫瘍の患者さんには、しばしば肺炎のような下気道感染症を起こします。下気道感染症に至った場合には2-4割の方が亡くなるなど、大きな脅威となります。

風邪の原因となるウイルスによって流行する時期は異なります。RSウイルスやインフルエンザウイルスのように冬に流行するものだけではなく、パラインフルエンザウイルスのように春から初夏にかけて流行するものもあるため、年中風邪に対する注意は必要です。具体的にはこまめな手洗い、適度な食事や睡眠などで体調を整える、体調の悪い人を避けるなどです。現在新型コロナウイルス感染症対策として勧められていることは、これらの呼吸器ウイルス感染症の予防の上でも重要です。

参考文献
Fontana Lら[Infect Dis Clin North Am. 2019]
Legoff Jら [Am J Respir Crit Care Med. 2019]
Waghmare Aら[Blood. 2016]
森ら[造血細胞移植学会ガイドライン]

では今回の新型コロナウイルス感染症は?

現在までの研究では、がん患者さんが一般の人よりも新型コロナウイルス感染症にかかりやすいかどうかははっきりしていません。しかし、がん患者さんが新型コロナウイルス感染症にかかってしまうと、一般の人よりも重症化する可能性が指摘されています。

  • かかりやすさ:がん患者さんは2倍程度かかりやすいという報告(参考文献①)がある一方、明らかな増加は示さなかったという報告もあります。(参考文献②)
  • 重症しやすさ:中国や米国から、がん患者さんは2-4倍程度重症化しやすいという報告があります。(参考文献③-⑥)しかしこれらは多くても200例前後の研究であり、米国からの約300例の報告では年齢によって重症化の傾向にばらつきがあり、さらなる検討が必要としています。(参考文献⑦)

血液腫瘍患者さんに関する情報はまだ十分にはありません。血液腫瘍患者さんは他のがん患者さんより重症化しやすいという報告がある(参考文献⑤⑥⑧)一方、血液腫瘍以外のがん患者さんと重症化のリスクは大きく変わらないという報告があります(参考文献⑨)。また、血液腫瘍の中でも急性白血病や骨髄増殖性疾患の患者さんや治療中の患者さんのほうが重症化のリスクがある可能性が指摘されていますが(参考文献⑩)、小数例での検討のため今後の大規模な症例数での検討が待たれます。これらはまだ十分に検討されている内容ではありませんので、過度に恐れる必要はありませんが、注意は必要です。

参考文献
① Yu Jらの報告(JAMA Oncol, 2020)
② Wang Bらの報告(Aging, 2020)
③ Guan Wらの報告(Eur Respir J, 2020)
④ Liang Wらの報告(JAMA Intern Med. 2020)
⑤ Mehta Vらの報告(Cancer Discov. 2020)
⑥ Dai Mらの報告(Cancer Discov. 2020)
⑦ Miyashita Hらの報告(Ann Oncol. 2020)
⑧ He Wらの報告(Leukemia. 2020)
⑨ Kuderer NMらの報告(Lancet 2020)
⑩ Martin-Moro Fらの報告(Br J Haematol. 2020)

新型コロナウイルス感染症から身を守るためには

現在までのところ、新型コロナウイルス感染症に明らかな治療効果を示す薬剤やワクチンはありません。このため、感染症にかからないように予防対策を心がけることがより重要です。患者さんだけではなく周囲のご家族も気を付ける必要があります。

予防の上で特に重要な点は以下の通りです。

  •  身体的距離を確保する。
    密集、密接、密閉の3つが重なる場合のみではなく、これらの一つしか当てはまらない状況も避ける必要があります
  • 手洗いを心がける。
    -外出中は手すりやボタン、ドアノブ、つり革などを触った場合手が汚染される可能性があります。身近に手を洗えるところがない場合、アルコール消毒剤による手指消毒も有効です。しかし、手に明らかな汚れがついた場合やトイレの後などは流水と石鹸でしっかりと手を洗いましょう。
  • 顔(特に眼、鼻、口)はできるだけ触れない
    -外出中など手が汚染されている場合は特に注意しましょう。
  • 家庭内でよく触れる部分の清掃、消毒(ドアノブ、スイッチ、手すり、リモコン、電話、携帯電話など)
    -注意)塩素系消毒薬を自宅で作成される場合は正しい濃度で換気をした上で「物の表面」の消毒に使用してください。濃い濃度は人体へ悪影響を及ぼすことがあります。
    次亜塩素酸等の噴霧は危険であり推奨されません。 いわゆる“空間除菌用品”も消費者庁よりその効果が不明であるとして行政指導を受けており、使用は推奨されません。
  • 厚生労働省や東京都感染症情報センター、経済産業省のウェブサイトが参考となります。
    感染防止対策チラシ0424
    新型コロナウイルス感染症 清掃消毒
    「次亜塩素酸水」の空間噴霧について
  •  睡眠や食事をしっかりとり体調を整える
    -喫煙は重症化の危険性がありますので、禁煙しましょう。
  • マスクの着用(マスクがなければ布で口と鼻を覆うことができれば十分です)
    -屋内、特に病院受診時や公共交通機関など人が多い空間へ行かざるを得ない場合は着用するようにしましょう。
  • 不安をあおるような情報は避けましょう
    -公的機関以外からの情報に触れる場合には注意が必要です。このような情報に触れることで不安が増強されるかもしれません。また、誤情報にも注意しましょう。抗菌薬やお湯、ビタミン、緑茶などの効果を証明する証拠はなく推奨されません。(抗ウイルス薬に関しては担当医とご相談ください。)
  • 国立がん研究センターがん情報サービス 新型コロナウイルスに関する情報へのリンク集
  • 日本癌学会 新型コロナウイルス感染症とがん診療について(患者さん向け)Q & A
  • 体調不良時は病院受診以外の外出は避ける
  • 新型コロナウイルス感染症の流行が落ち着いた際には肺炎球菌ワクチンをはじめ、移植後の接種を検討する
    ₋10月ごろにはインフルエンザの予防接種も強くお勧めいたします。
    -国立がん研究センター東病院「がん患者さんの感染症予防について」

もし、発熱や呼吸器症状がでたら…

かかりつけの担当医との間で決まりごと(電話で相談、近医を受診するなど)があれば、その指示に従ってください。
特に決まりごとがない場合、早めに担当医にご相談ください。特に症状が重い場合はかかりつけの担当医へ2日を待たず早めに電話で相談しましょう。4/27に厚生労働省は新型コロナウイルス感染症の軽症者にかかる宿泊療養・自宅療養における健康観察における留意点として顔色が悪い、肩で息をしている、もうろうとしているなど13の項目があり、このような症状がある場合にも早めに相談しましょう。
なお、病院は新型コロナウイルス感染症にかかるリスクの高い場所でもありますので、軽い症状のみでのむやみな受診は避ける必要があります。

一般的な内容も含め、詳しい内容は以下のサイトもご参照ください

・国立がん研究センター東病院「新型コロナウイルス感染症について」
・厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ & A(一般の方向け)

CNJが運営する動画で学ぶ「もっと知ってほしい造血幹細胞移植のこと」で冲中敬二先生にご解説いただいた感染症の予防対策の動画はこちらでご覧いただけます。

【造血幹細胞移植⓼】感染症の予防対策