命を救う献血の向こう側 神奈川県赤十字血液センターを訪ねて2

血液事業は日本赤十字社に与えられた使命

『人間を救うのは、人間だ。』。これは日本赤十字社のスローガンです。Start to Beが訪ねた横浜市港北区にある神奈川県赤十字血液センターで目にしたのは、冒頭のスローガンを体現する職員の方々の仕事ぶりでした。高い意識を持った職員を率いるのは、センター所長の藤﨑清道さん。献血、そして日本骨髄バンク支援事業の骨髄ドナー登録に携わる思いとは。また、輸血に必要な血液製剤を安全かつ確実に医療機関に届ける体制作りについてもうかがいました。

たくさんの善意と共に、血液製剤を患者さんの元へ

日本赤十字社の活動の一つに、献血にご協力いただける方を募り、採取した血液を血液製剤※として製品化し、輸血を必要とする患者さんが待つ医療機関に届ける「血液事業」があります。24時間365日、何があっても患者さんに安全な血液製剤を届けるという、当社だけに託された使命に誇りを持って取り組んでいます。血液事業は職員の努力はもちろん、血液を無償で提供していただいている献血者をはじめ、企業や団体、ボランティアスタッフの協力が不可欠で、多くの善意に支えられていることに感謝が尽きません。

笑顔で迎えて下さった藤﨑清道所長

また、日本骨髄バンクの支援機関として骨髄ドナー登録者の受け付けにも力を入れ、献血と一緒にドナー登録ができる献血併行型ドナー登録会などを開催。献血と同様、命を救う仕事であることに変わりはなく使命感を持って行っています。神奈川県のドナー登録数は増加傾向にありますが全国的に見ると十分とは言えず、今後も団体や企業との連携を強化してドナー登録会の回数を増やし、啓発・普及にも力を入れて献血時にドナー登録ができることを積極的にアナウンスしていきます。
※人の血液から作られる医薬品の総称。輸血用血液製剤には、赤血球製剤、血漿製剤、血小板製剤、全血製剤がある。

「献血併行型の骨髄ドナー登録会の開催により、献血推進の意義が一層広がる」と藤﨑所長

血液を計画的に無駄なく届ける需給管理体制を確立

ところで、日本赤十字社には、「ブロック血液センター」と「地域血液センター」があることをご存じですか。全国を北海道、東北、関東甲信越、東海北陸、近畿、中四国、九州の7ブロックに分けて、各ブロックセンターにそのエリアで採血した献血が集められ、血液の検査や血液製剤を製造しています。2012年に全国を7ブロックに分けた現在の需給管理体制が整ったことで、広域エリアでの計画的な献血者の確保、血液製剤の在庫の一元管理ができ、血液を無駄なく有効に活用できるようになりました。神奈川県赤十字血液センターが属する関東甲信越ブロック血液センターは東京製造所(江東区)の他、分置施設として神奈川製造所(厚木市)、埼玉製造所(東松山市)があります。
地域血液センターは各都道府県にあり、採血業務の他、ブロックセンターで製造された血液製剤を医療機関に届ける供給業務を担当しています。
当センターの持ち味は何と言っても「団結力」。献血者が減少する冬場は献血量の確保に苦労しますが、血液が足りないという事態はあってはなりません。そんな時は職員たちが課を超えて一丸となり、寒空の下で献血を呼び掛けて安定的な供給を守ってきました。今回の取材を通して、普段は表に出ない職員の仕事や思いに触れ、一人でも多くの方が献血と骨髄ドナー登録に関心を持っていただければ幸いです。

継続は力なり。骨髄ドナー登録会を計画的に開催 ~登録課~

水泳の池江璃花子選手の報道をきっかけに、白血病という病への関心は一気に高まり、治療には骨髄移植が必要な場合があり、骨髄提供者であるドナー不足の現状を多くの人が知ることになりました。メディアの影響力に驚く一方で、コンスタントに骨髄ドナー登録会を計画し実施している人達の存在を忘れたくはありません。その存在とは、神奈川県赤十字血液センター「登録課」の皆さんです。ドナーを待ち望む患者さんの希望をつなぐ登録課の仕事をクローズアップします。

骨髄ドナー登録者数の増加に向けて一歩ずつ

登録課は、骨髄ドナー登録会の開催計画を関係団体と調整することがおもな仕事です。県内にある3ヵ所の献血ルームでは、月に一度骨髄ドナー登録会を定期開催する他、ボランティア団体の「神奈川県骨髄移植を考える会(以下、考える会)」と連携して献血併行型ドナー登録会を行っています。開催の流れは、登録課から考える会に翌月の移動採血の計画表を提出し、それをもとに考える会が登録会場を選び、献血実施先にドナー登録会を打診し開催に至ります。当センターではドナー登録会の開催数が増えており、県内のドナー登録者数が増加する傾向にあります。平成28年度は1,199人、平成29年度は1,653人、平成30年度は2,831人にまで増えています。
各自治体からの問い合わせも増えているんですよ。これは、神奈川県で平成30年度に導入された骨髄ドナー支援事業の影響だと思います。大磯町役場からは献血併行型ドナー登録会を希望する連絡をいただき、他にも市町村で献血を行う際にドナー登録会を開催する機会が増えています。(高橋直子さん)

ドナー登録をした人が、アクティブドナーになることを願って

平成30年度の骨髄ドナー登録者の増加は、白血病を公表した水泳の池江璃花子選手の報道が大きく影響しています。発表があったのは同年2月、前月の登録者数は202人でしたが、翌2月には854人に。資材が足りなくなるほどでした。白血病に関心が集まり、治療における骨髄移植の必要性が周知されたのはよい傾向ですが、この流れが一過性にならないために登録の呼び掛けを引き続き行いたいと思います。また登録はしたけど、いざ患者さんとHLA型※が一致して適合通知を受け取った段階で、家族の反対や仕事の都合を理由に骨髄提供に至らないケースが多いとも伺っています。ドナー登録者数だけでなく、実際に骨髄提供をしていただけるアクティブドナーの増加を願ってやみません。

登録課の高山美郎さん

また、住所不明で適合通知が戻ってきてしまうケースもあります。特に若い世代は転勤や結婚で住所が変わる機会が多いので。対策として、献血経験のあるドナー登録者によっては、郵便物が届かない場合に限り、献血者コードをもとに住所などのドナー登録情報を更新することも行っています。それでも、その方が転居先で継続的に献血をしていない場合、最新の登録情報がわかりません。住所が変わった場合は、HPから登録内容の変更をぜひお願いします。(高山美郎さん)

各団体と二人三脚で、移植を待つ患者さんの未来のために

私が日本赤十字社に入社したのは、『人間を救うのは、人間だ。』というスローガに心を打たれ、困っている人に手を差し伸べる仕事がしたいと思ったからです。ここなら思いを形にできる、そう思いました。実際、とてもやりがいを感じています。ドナー登録者数を増やすのは私たち職員の力だけでは難しく、ボランティア団体やNPO団体との連携が不可欠であり、各団体の皆さんにはとても感謝しています。(高山美郎さん)

この仕事を通して移植を待つ患者さんの命に貢献したいという思いで登録業務に携わっています。これからもボランティア団体やNPO団体と良好な関係を築きながら、ドナー登録会の開催を継続していきます。(高橋直子さん)