小児の急性白血病について

この記事は、神奈川県立こども医療センター 血液・腫瘍科部長 後藤裕明先生に寄稿していただきました。

小児の急性白血病

日本国内で小児がんと診断される患者さんは年間約2,500人であり(日本小児血液・がん学会登録)、疾患の分類では、そのうちの半数を造血器腫瘍、つまり血液のがんである白血病が占めます。中でも小児では急性白血病(急性リンパ性白血病と急性骨髄性白血病)の割合が高く、慢性白血病の発症頻度が少ないという特徴があります。白血病は薬物治療(化学療法)によって治癒可能な疾患ですが、小児の急性白血病は特に治癒率が高いということも重要な特徴です。

急性リンパ性白血病

リンパ球は白血球の一種で、免疫をコントロールする役割を担っています。このリンパ球が、がん化した疾患がリンパ性白血病です。小児がんの約1/4は急性リンパ性白血病であり、もっとも代表的な小児がんと言うことができます。リンパ球は機能や特徴により細分化されますが、小児では未熟なB細胞に起因する、B前駆細胞性急性リンパ性白血病が多くみられます。乳児期から成人まですべての年代で発症が見られますが、2歳から4歳の間にもっとも多くの発症が認められます。

リンパ球に由来するがんでは、他に悪性リンパ腫という疾患がありますが、こちらは骨髄以外の部位でがん細胞が増殖する疾患であり、骨髄の中に占めるがん細胞の割合によって急性リンパ性白血病との区別を行います。

急性骨髄性白血病

リンパ球以外の血液細胞に分化する傾向を持つ急性白血病を急性骨髄性白血病と分類します。白血病細胞の顕微鏡による観察所見によって急性骨髄性白血病を分類する方法(FAB分類)が古くから用いられてきましたが、近年では白血病細胞に見られる染色体や遺伝子異常の種類を勘案した分類法(WHO分類)も用いられます。これらの疾患分類は、治療法を決定する、あるいは治療効果を予測する上で重要です。

急性白血病の症状

急性白血病として特徴的な症状は少なく、わたしたちの施設(神奈川県立こども医療センター)で急性白血病に対する治療を受けたこどもたちの、もともとの受診契機は、長引く発熱や感冒様症状が大半でした。その他では、腕や足の痛み、皮膚にあざがたくさんできる、などの症状がみられますが、いずれの症状もインフルエンザなど他の疾患でも認められるため、症状が出現した最初から急性白血病が疑われることは殆どありません。発症から診断に至るまで1~数週間を要することも稀ではありませんが、診断までの時間は、治療法や治癒率と必ずしも関係はしません。

急性白血病の診断

発熱などの原因を調べるために行われた血液検査で、貧血(赤血球数が低くなる)、血小板減少、異常な白血球の出現、を認めることが急性白血病を疑うきっかけになります。白血球数そのものは、増えることも、減ることもあります。一般診察では、顔色の悪さ、皮膚のあざ、肝臓や脾臓の腫大(大きくなること)、リンパ節の腫大、歯肉の腫脹、男子では睾丸の腫大を認めることがあります。

急性白血病の確定診断のために、骨髄穿刺といって、骨髄の中にある血液を採取する検査が行われます。骨髄の中で白血病化した芽球(未熟な細胞)がどれくらいの割合を占めているのか、白血病細胞の形態や特殊染色のよる染まり方などを、顕微鏡を使った検査で評価します。さらにフローサイトメトリーという検査により白血病細胞がどんな種類の血液細胞に由来するのかを同定し、また、白血病細胞の染色体や遺伝子の異常について検査が行われます。

成人白血病とのちがい

急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病はともに、年齢に関わらず発症する疾患です。白血病による症状に小児と成人の間での差はありません。ただし、急性骨髄性白血病の発症頻度は成人の方が高く、急性リンパ性白血病の中では、T細胞性急性リンパ性白血病やフィラデルフィア染色体と呼ばれる特殊な染色体異常を持つ白血病が成人に多く発症するなど、小児と成人では発症しやすい疾患の種類に差があります。

治療と予後について

いずれのタイプの急性白血病でも、リスク(疾患の治りやすさ、治りにくさに基づく分類)に応じて、化学療法の種類や方法が選択されます。一般的に高リスクと分類される白血病に対しては、使用する抗がん剤の種類を増やす、使用する量や回数を増やすなどの工夫が行われます。高リスク群の一部には造血幹細胞移植(骨髄移植など)が行われる場合があります。

急性リンパ性白血病では、がんになったリンパ球の種類(T細胞かB細胞か)、診断された時の年齢、血液中の白血球数が従来から使用されるリスク分類の指標ですが、近年では白血病細胞の染色体・遺伝子異常の種類や、化学療法への反応性も重要な指標として用いられています。脳や脊髄の周りにある髄液に白血病細胞が存在するかも、その後の治療計画にとって必要な情報です。

急性骨髄性白血病では、急性前骨髄球性白血病、ダウン症に合併した白血病を除いて、統一された治療形式が選択され、初期治療への反応性や白血病細胞の染色体・遺伝子異常の種類がリスク分類の指標となります。

治療期間が長い(急性リンパ性白血病では約2年、急性骨髄性白血病では8~12ヶ月)ことが急性白血病に対する治療の問題点ですが、急性リンパ性白血病の80-90%、急性骨髄性白血病の60-70%が最初に計画された治療により治癒に至ります。