インタビュー記事

二度の骨髄提供は、「お互いさま」の精神で

「緊張や不安? あまり感じないですよ」。二度目の骨髄提供を前に笑顔でサラッと心境を語るMさん(30代・男性)。迷いなく軽やかに人のために行動する姿は、ドナー登録の垣根を下げ、助けが必要な人がいる現実を身近に感じるきっかけを与えてくれます。骨髄採取のため入院中の病室を訪ね、名も知らない誰かのために行動し続ける胸の内をうかがうと共に、骨髄採取の様子をレポートします。

取材・執筆/北林あい、撮影/小北一兵

助けが必要な命に貢献したくて決めた骨髄ドナー登録

ドナー登録をしたのは30代前半です。きっかけは、地元の消防団での活動でした。人が亡くなる現場を目の当たりにして命について考えるようになり、救命講習の指導資格を取った。他にも自分にできる命を救う活動はないかと情報収集する中で骨髄バンクを知り、骨髄ドナーに辿り着きました。骨髄を提供することへの不安や怖さはなく、それより人の役に立ちたいという思いが勝っていました。両親に話すと、「あなたがやりたいなら反対しない」と言われ、僕の場合ドナー登録に“壁”はなかったです。

患者さんと自分の白血球の型(HLA)が一致したことを知らせる適合通知が届いたのは、登録から半年後。この時点ではまだドナー候補ですが、念願が叶うと思ったらなんだか嬉しくて。ドナー決定までにはプロセスを踏む必要があり、これをコーディネートと言います。まず、病院で骨髄バンクのコーディネーターさんから骨髄提供の流れや考えられるリスクについて説明を受けた後、調整医師が採血や問診を行う確認検査を受けました。しばらくすると骨髄バンクから通知が届き、残念ながらこの時はドナーに選ばれずコーディネートは終了。書類には、「患者さんの都合」と書いてあり、選ばれなかった詳しい理由はわかりません。もっと適合率の高いドナーがいたり、患者さんの病状変化だったりすることが多いようです。

ドナー決定、人の命を担う役割に身が引き締まる思い

2回目の適合通知を受け取ったのは、コーディネート終了から半年後でした。前回の検査結果が使えると言われ確認検査は省略し、調整医師、コーディネーター、骨髄バンクが手配した弁護士、両親の立ち合いのもと提供意思を確認する最終合意が行われました。もちろん断る理由はなし。ドナーに決まった時点で患者さんの命を担う責任感が生まれ、少しドキドキしましたね。体調管理に気を配り、禁酒や運動、風邪をひかないようにマスクをつけて過ごしました。その後、健康診断、自己血輸血のための採血を経て、いざ入院。健康診断は、肺活量測定がスムーズにいかず苦労しましたが、他に大変だなと感じたことはありませんでした。

確認検査や健康診断は会社に半休を取り、骨髄採取のための3泊4日の入院は有給休暇を使いました。務め先の会社にドナー休暇制度はありませんが、フレックス制なので休みを調整しやすく助かっています。社内でドナー提供者はいませんが、みんなが理解を示し快く送り出してくれました。

リラックスして臨んだ二度目の骨髄提供の様子をレポート!

今回は二度目の骨髄提供になります。最初の提供から一年間は、ドナーの選定から外れる保留期間がありますが、適合通知が届いたのは保留解除後すぐでした。順調なペース(笑)! 骨髄バンクを介した提供は2回までです。最初の提供後、2回目にも意欲的だったので実現できて嬉しい限り。前回同様3泊4日の入院。採取前日に入院し、その日の21時以降は飲食禁止。いよいよ採取当日、その流れをご覧ください!

【採取当日の流れ】

  1. 午前9時前。手術着に着替え、両親に見送られてストレッチャーで手術室へ移動。

2. 骨髄採取は全身麻酔で行います。前回はマスクで麻酔薬を吸入しましたが、今回は手の甲から点滴で麻酔薬を入れる静脈麻酔を行いました。今回は、注射直後にちょっとピリピリしました。

3. 正午過ぎ。無事に骨髄液1,000cc採取し病室へ。意識は半覚醒でしたが、看護師さんとの受け答えはできました。

4. 脚には血栓防止装置を装着。尿カテーテルを抜いた後の排尿痛が心配でしたが、尿カテーテルは使用せず、T字帯の中に尿取りパッドを入れて対処。気管チューブを抜いた後は少し喉が痛みました。

5. 腸骨に骨髄刺針を刺して骨髄液を採取します。前回は5ヵ所でしたが、今回は3ヵ所に刺しました。

6. 午後には看護師さんに見守られて病室内で歩行を確認。問題なかったので病室のあるフロアの歩行を許可されました。翌日はベッドの上でパソコンを開き、仕事もぼちぼち再開。

7. 体調は良好、痛み止め不要、食欲あり!採取日の夕食、かじきの竜田揚げをおいしく完食。

【骨髄提供を終えて】

最初の骨髄提供は初めての入院と全身麻酔だったので少し緊張しましたが、二度目はリラックスして臨めました。不安はなく淡々と終わったという印象です。採取翌日、「患者さんへの移植が無事に終わりました」と報告を受けてほっとしています。採取後の痛みや体調の感じ方は人それぞれだと思いますが、僕の場合は採取部位に筋肉痛のような違和感があるだけで痛みはなし。他の提供者に聞いても鈍痛程度という人が多かったですよ。予定通り3泊4日で退院し、週明けから仕事に戻ります。

患者さんの元気な姿がドナーのモチベーション

人のために動くモチベーションを支えるのは、血液疾患の厳しい治療を乗り越えた患者さんの存在です。最初の提供後、職場の女性が白血病になり、じっとしていられませんでした。もっと自分にできることはないか情報を集め、骨髄バンクの活動をサポートするボランティア団体に出会った。「これだ!」と思い活動に参加、活動を通して白血病などの体験者と交流し、移植を経て日常を取り戻した患者さんの姿にドナーの意義を感じました。それが僕の行動力の源です。

ドナーに対して「申し訳ない」という言葉を同種移植体験者から聞くことがあります。会社を休み、体に負担をかけて骨髄を提供してもらうことへの申し訳なさだと思いますが、どうかそんなふうに思わないで。病気になったのは患者さんが悪いのではなく、僕だっていつ大病をするかわからない。だから「やってあげている」という意識はなく、「困ったときはお互いさま」の精神です。立場は対等だし、患者さんは大切な仲間。闘病を経てボランティア活動をしている方々は、治療に長い時間を費やし、なおかつ退院後も自分の時間を同病の患者さんや社会のために使っています。僕の方こそ頭が下がる思いですよ。

ドナー登録への関心を高め登録者を増やすためには何が有効なのか、いつも模索しています。確実に必要なのは、移植治療が必要な病気に関心を持ち、その病気と闘う患者さんに心を寄せ、病気を身近に感じる機会を作ること。他人事が自分事になったとき、人は行動に移せると思うので、そのきっかけを作っていきたい。勤務先では、僕のドナー体験と同僚女性の白血病罹患を機に、会社で献血併行型ドナー登録会が実現しました。人を動かすのは、やっぱり人ですね。

【白血病サバイバーからドナーへ】

Start to Beのカメラマンを務める小北一兵さんは、急性骨髄性白血病に罹患し臍帯血移植を経験。ボランティア活動を通してMさんに出会いました。患者体験者が抱くドナーへの思いを語ってもらいました。

「Mさんは僕が初めて出会った骨髄バンクドナーです。初対面の僕への第一声は、『ありがとう』でした。言葉の真意を尋ねると、『元気になってくれてありがとう』という意味だって。涙が出ますよね。二度の骨髄提供で患者さんの命に貢献し、患者を代表してお礼を言いたいのはむしろ僕の方なのに。心が震えるこんな出会いが待っているとは闘病中は想像もせず、ご褒美をもらった気分です。もう一つMさんに感謝したいことがあります。ボランティアを始めた頃、闘病を支えてくれた人達に恩返ししたい一心で身を粉にして活動していた僕にMさんは、『ドナーの願いはただ一つ、退院して元気に日常生活を送ってもらうこと。それが一番の恩返しだから無理して行動量を増やす必要はない』と言葉を掛けてくれた。心が軽くなりました。かけがえのない『仲間』に助けられています。」